あずのかなこ
埼玉県出身、諏訪市在住
株式会社 ReBuilding Center JAPAN取締役
『靴』の思い出と聞いて真っ先に思い浮かんだのはお父さんのこと。私のお父さん、埼玉に住んでいる時に年中、冬も下駄を履いている人だったんです。さすがに仕事中とか海外に住んでいた時には履いたりしていなかったけど。歩いているとカランカランと下駄の音がするから、地元の人たちからは「かなちゃん家のお父さんが歩いているのがわかる」って言われていました。子どもの頃、お父さんの下駄はすごく大きいのに私は一生懸命それを履いたりして、「大人になったらお父さんの下駄を履いてみたい!」と思っていました。子どもの頃って、お父さんが履いているものがかっこいいと思っちゃうことってなかったですか?高校生の時のHARUTA(※1)の靴が人生はじめての革靴かな。中学生の頃はロンドンに住んでいて、日本の雑誌を読んで「これが日本の女子高生がみんな履いているHARUTAの革靴かぁ!」と知って憧れていました。
いま(インタビューの時)履いているこの革靴は、あずのさん(※2)と付き合い始めてから、あずのさんがはじめてプレゼントしてくれたものなんです。nakamura(※3)っていう革靴屋さんが作った靴で、コッペパンみたいな形をしていて。よくふたりで行っていたカフェの店員さんがここの靴を履いていて、足に馴染んでくたくたになっている感じがすごく良くて。nakamuraが家の近くにあるって知って、あずのさんがクリスマスだったかな?その時にプレゼントしてくれたんです。その当時、ゲストハウスで働いていたから靴の脱ぎ着が多くて、軽く履けて軽く脱げるものをよく身につけていました。それまでスニーカーとかスリッポンとか、履き潰して終わりみたいなものをよく履いていたから、手入れして履く靴っていうのは、高校生の時に履いていたHARUTAの革靴以来なのかな。25歳くらいの頃はスニーカーとかばかりで革靴になかなか慣れなくて足が結構痛くて。それに自転車通勤していたので、ブレーキをかける時に革靴に傷が付くのが嫌でなかなか履けないでいたんだけど、最近また履くようになりました。ゲストハウスを辞めて、medicala(※4)の現場が始まる前にまた履きはじめて、そしてまた最近からもよく履くようになって。革靴って長く使えるからいいなって思って。山口で革靴を作っている池間さん(※5)っていう人がいて、履く人の足の型から作っていて、池間さんの靴はしばらく履かない時期があっても履けるし、直してもくれるから長く一緒にいられるし、それで革靴はいいなぁって改めて思いました。保っていられるっていうか。スニーカーはどんどんくたびれていくだけで、置いておいても強くはならないし、履き潰す感じがする。手入れしようがないかな。25歳の時、革靴を履くようになってからはじめて「育てるものが自分のところに来た」って思いました。
スエード地でかわいいくて、底が薄いからすぐにだめになっちゃうんだけど、旅に行くときはいつもミネトンカ(※6)を履くって決めていました。履き潰す系の薄い靴は、そのあと手元に置けない寂しさがあって、どんなに思い出がつまっていてもどんなに杢太郎(※7)のファーストシューズがかわいくても、ずっとは手元に置いておけない悲しさがありますよね。
自分のお小遣いで一番最初に靴を買ったのは大学生の時かな、長く海外に住んでいたから、日本の女子高生や女子大生が持っているものに強い憧れがあって、みんなが持っているものを私もほしかった。アムロちゃん世代(※8)だから ビルケン(※9)とか みんなが持っているものを自分ももつことが価値のあることだったから。みんなが持っているからって理由じゃなくて、靴ってこんなにくたくたになるものなのかぁ!と、ものと長くつきあっていく、その人のものっぽくなっていくんだなぁと感動して買ったのはnakamuraの靴がはじめてだったんじゃないかな。自分の意志で、これがほしいって思ったのは。ほかに思い出す靴の話だと、働きはじめた時にセレクトショップで買った靴だったり、ロンドンで住んでいた頃に履いていたSKECHERS(※10)かな。
KEEN(※11)の靴はスタッフみんな大好きで、会社のみんなも愛用していて、会社もとてもすばらしくって、ポートランドのリビルディングセンター(※12)もKEENにサポートされていて、みんなKEENをはいているんですよ。冬のブーツがほんとうに暖かくて、すごく守ってくれている感じがします。KEENの靴は工事現場でも履けるように鉄板が入っている仕様もあって、ポートランドと諏訪、どちらのリビルディングセンターも釘なんかがよく落ちている現場だから怪我しないために、ポートランドではKEENがリビセンに靴をプレゼントしている形になっているんです。履きやすさと扱いやすさでリビセンでも使う人たちが増えていっている。夏のサンダルもすごくよくって、足にフィットする感じとかホールド感というか、仕事中の疲れが全然違う。立ち仕事が多い現場なので、服もそうだけど、ストレスなくちゃんと靴が履けているっていうことがとても大事なんだと思う。
HARUTA(※1) 1917 年に東京都荒川区で創業。学校指定の通学靴と しては国内トップシェア。ローファーとストラップ シューズが看板商品。
あずのさん(※2)東野唯史。株式会社 ReBuilding Center JAPAN 代 表。
nakamura(※3)中村隆司、中村民さんご夫妻によるシューズブランド。 足立区に工房とショップを構える。
medicala(※4)2014 年始動、東野夫妻による空間作りユニット。下 諏訪のマスヤゲストハウス、萩の roco など手がける。
池間さん(※5)池間貴幸。山口県山口市でオーダーメイドの靴を作る靴職人。
ミネトンカ(※6)アメリカのハンドメイド・インディアンモカシンの老舗ブランド。
杢太郎(※7)やたろう。華南子さん家の長男。電車が好きな3歳。
アムロちゃん世代(※8)沖縄県出身の歌手・安室奈美恵のファッションが 1996 年前後に大流行。スタイルを真似た人たちは『ア ムラー』と呼ばれた。
ビルケン(※9)BIRKENSTOCK。ドイツ発祥の靴ブラインド。創業 250 年になる世界の靴メーカーの中でも老舗中の老 舗。
SKECHERS(※10)アメリカ・ロサンゼルスにて 1992 年にグリンバーグ 親子によって設立。ドクターマーチンの代理店などを 勤めたのちにオリジナルブーツやスニーカーの製造を 行う。
KEEN(※11)2003 年にアメリカ・カリフォルニア州にてフットウェ アブランドとして設立。社会貢献活動(CSR)を積極 的に行っている。
ポートランドのリビルディングセンター(※12)アメリカ・ポートランドの DIY の聖地。ここを訪れ た東野夫妻は深い感銘を受け、日本版のリビルディン グセンターを作りたいと決心したという。